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 シーン103/バラ色の人生 2007.12.27 OA
仕事もあと一日か…、デスクの上をいつもより丁寧に片付けて、オフィスを出た。
にぎやかな通りを横目にハンドルを切る。ふいにカーラジオから、情熱的なエディット・ピアフの歌声が聴こえてくる。
耳を傾けながら、つい何ヶ月か前に見た、ピアフが描かれた映画のことを思い出した。
ピアフは1915年、第一次世界大戦の最中に生まれた歌姫。証明書には病院が記されているものの、その出生については、パリ・ベルヴィル地区の路上で生まれた、とか、アパルトマンの階段の上で生まれた、なんて半ば伝説のようなエピソードがある。
虚弱体質だったピアフは3歳で失明、その後、視力が回復するという奇跡を体験する。9歳で父親とともにサーカスの一座に加わって歌い始め、15歳で父親から独立して、パリの路上で歌って暮らすようになる。
それから歌手として見出され、順風満帆のはずの船出だったけど、あるときには殺人容疑にかけられたり、あるときには人生最大の恋に落ちたり、でもその彼も出会ってわずか2年後、飛行機事故で亡くなってしまう。そして、そのあとも数々の運命が彼女を襲った。そう、ピアフが、この世に生を受けてから、47年の生涯に幕を閉じるまで、スクリーンに釘付けになってしまうほど、波瀾万丈の生き様だった。

私達はこうやってときどき他人の人生を覗く。
バラ色かそうじゃなかったのか、幸せかそうじゃなかったのかは本人にしかわからない。ただきっといつだって彼女は逃げなかった。
帰ったら、買ったばかりの2008年のスケジュール帳を開いてみようか。
今から決まっている予定、続けるつもりの習い事、埋めていこう。
そして、新たに、挑戦したいこと、実現したいことを数えてみよう。
人生を変える出会いは本当にどこに待っているかわからない。
1つ1つ、選んできたことすべてが今につながっている、1秒先、1分先につながっている。
もうすぐ終わる2007年、今年は何色だったのだろう…。
そして人生最後の日には何色に見えるのだろう…。
ピアフが切なく歌い上げている。
後悔しないように精一杯生きて、と、語りかけるように…。

カーラジオのボリュームを上げると『la vie en rose』が流れてきた。

 シーン102/プレゼントを選ぶ頃 2007.12.20 OA
2007年も最後の月、もうすぐクリスマス。
毎年、この時期は、華やいだ街の雰囲気とは裏腹に、心の中は、マーブル状態。
一年を振り返って、いい年にできたかな?とか、いくつ夢を叶えたかな?なんて、反省と、また一年終わってしまうことの淋しさとが入り混じっている。
信号待ち…、行き交う人の流れ、肩にかけたバッグのほかに、大きな箱や包みをかかえた人が目立つ、クリスマスプレゼントかも…、そんなことを思いながら、ふと、左の手首にしているブレスレットにさわってみる。
いつもしているこのブレスレットは私のお守り。
大学を卒業して、社会人一年目のクリスマスに母がプレゼントしてくれたもの。
プラチナで1センチかくの小さな四角が連なって出来ている。
そして、その小さな四角はそのままでもいいし、お気に入りのチャームをはめこんでもいいようになっている。
最初にもらったときは星のチャームがひとつ、それから、クリスマスがくるたびに、ハートやイニシャル、誕生石のもの…決まり事のように母が贈ってくれるようになった。

そのブレスレットをつけるようになって、不思議なことに、今まで通らなかった企画が急に通ったり、日常のささやかな場面でも素敵なことが続いたりと、何か目に見えない力が働いたような気がする。偶然かもしれないけど、それ以来、なんだか、はずせなくなってしまった。
その次の年にも、新しいチャームが、またひとつ私の腕を飾ると、最近なんとなくズルズルしているかも…と、悩んでいた彼との関係に、まるでお告げがあったかのように、きっぱりやめようとふんぎりがついた。
もちろん、付き合っている間に彼からリングやピアスももらったけど、別れてしまったので、それはもう身に着けない。
そしてまたクリスマスが来て、新しいチャームがはめ込まれたとき、また新しい恋も見つけた。その次のときは引越し、その次のときは海外勤務。
私のことをずっと見ているブレスレット。
そうやって恋人が変わったり、環境が変わったり、このジュエリーは私の転機とともにいるかもしれない。
今年もやってくるクリスマス、街を急ぐ人たちも、大切な人にプレゼントを選ぶ頃。
もしかしたら母もまた、この小さな贈り物を選んでいるかもしれない。

カーラジオのボリュームを上げると『My heart will go on 』が流れてきた。

 シーン101/ともし火 2007.12.13 OA
今日は、女友達を招いてクリスマスと忘年会をミックスしたホームパーティー。
仕事や付き合いや、暮れに向ってスケジュールが立て込んでくるので、毎年、少し早い時期に私達は集まる。
デパ地下で買ったもの、あるいは自慢の手作りの品を持ち寄って。
私達が大学を卒業してから、こうやって、年に一回、集まりだしてどのくらいになるだろう、ここでは素顔でいるから肩書きは嫌いだけど、OL、主婦、教師、デザイナーなど、メンバーは6人。その中の一人が、会社に勤めながら、独学でキャンドル作りを始めて、最近、アトリエを立ち上げるまでになったということもあって、今夜はお祝いも兼ねている。

料理が並ぶと、早速、部屋の明かりを落として、彼女が持ってきたキャンドルに火を灯してみる。「わぁ〜、きれい。」と、一同、感嘆の声が上がる。
大小さまざま、いくつものキャンドル、炎が揺らぎ、影が広がる。
彼女いわく、キャンドルは、空間を演出するもので、炎と影はセットになっているんだそう。火を灯したときに、四方八方に伸びる影とか、優しくほんのりした影とか、影がどんなふうに描かれるかも考えて作っているんだとか。
でも、そもそもなんでキャンドルなの?と、誰かからの質問に、「仕事から帰ってきて、寝る前まで、よくキャンドルをつけて過ごしてたのね。ワインを飲んだり、一日の反省をしたり…ね、そうやって炎を見てると、激しく燃えたり、消え入りそうだったり、二度と同じ姿を現さない炎、そんな炎に気づかないうちに人生を重ねてたのかな、すごく素直になれる自分がいたのよ。それからいろんなキャンドルに触れるうちに、作ってみたいって思って、今に至るって感じかな。
みんなが私が作ったキャンドルライトに包まれて、微笑んだり、涙したりしてくれたらすごく嬉しい。
だって、キャンドルはともしび、“友をしのぶ”だからね。」と、彼女。
確かに、揺らめく炎、生き物のように形を変える影を見てると、なんだか告白したくなってくる。
終電の時間が近づくと、まだ話し足りないね、と、言いながら、私達はあちこちに置かれた火を吹き消した。メンバーを駅で降ろすと、みんな彼女からもらったキャンドルを片手に、私に手を振っている。今度はいつ点けるだろう、それぞれの灯り…ともし火…。

カーラジオのボリュームを上げると『You light up my life』が流れてきた。

 シーン100/カモメと私と冬の海 2007.12.6 OA
冷たい風が頬を切っていく。
冬の海は夏の海より、うんとロマンティック。
ポケットで手をつなぐカップル、犬と戯れる少年、みんなそれぞれストーリーになる。
年の瀬を急ぐ、街の喧騒を抜け出して、海を見にきた。
忙しいまま一年の終わりに向って突っ走ってしまうのがなんだかしのびなくて、繰り返す波をぼーっと眺めたり、波打ち際を歩いたり....。
そしてここへ来ると必ず立ち寄るレストランの扉を開ける。疲れた時はいつでもおいで、と、温かく迎えてくれる。
サーフィン好きのマスターが作ったというログハウス風のお店。テーブルには貝が埋め込まれていたり、壁にはサーフボードが飾られていたり、そして一年中、日焼けしたサーフィンの仲間たちが集っている。
窓の外に広がる水平線、空を飛んでいるカモメを目で追う。
と、ひとりでいる私にマスターが話しかけてきた。
「鳥にはね、2種類の飛び方があるんだよ。トンビや鷹のように、風や気流に乗って、羽ばたかずに空を飛ぶ鳥と、カラスや鳩のようにずっと羽ばたいて飛ぶ鳥と。
僕も会社を辞める前はずっと、カラスのように羽ばたき続けていて、こんなんじゃなかったはずだってトンビや鷹に憧れてたんだ。
でも、ここに来てカモメと出会ったんだよ。カモメは両方の飛び方が出来るんだ。
渡り鳥だから長距離を飛ぶだろう、だから羽ばたきも必要だし、かと思うと、船と併走するようにゆったりと羽を休めて浮かんでいたり。
今の僕は、羽ばたくだけ羽ばたいたあと、風に身を任せているところかな。」

カモメか....、そうか、私はカモメになりたくてここに来るのかもしれない....。

「でも、この間、本当にカモメには申し訳ないことをしてしまったんだ。ゆぅっくりクルージングしてたら、カモメの群れがどこまでもついてきてさ。それはそれは、きれいな光景で....、タバコを吸ってて、ついついカモメに見とれてたら、あやうく火傷するくらいタバコが短くなってて、アチッって、海に放っちゃったんだよ。そうしたら、それを見てたんだな、一瞬のうちにやってきて、そのタバコをパクッてくわえてったんだ、パンかなんかと間違えて..。そのあと、しばらくそのカモメはゲホッゲホッって咳き込んでて、アハハ....本当に悪いことをしたよ。」
アハハ...私もつられて笑った。羽ばたきをとめた休みの日....、明日はまたカラスになって2007年最後の月を飛ぼうか。

カーラジオのボリュームを上げると『Sailing』が流れてきた。

 シーン99/あの人の通る道 2007.11.29 OA
「い〜しやぁ〜き〜も〜、や〜きいも」「じっくりこっくり焼いたお芋だよ」
細い道を入ったら焼き芋屋さんの車に遭遇した。
繰り返されるテープの声に、近所の子供達が遊びの手を休めて、車へと駆け出す。

気がつけば、いつのまにか焼き芋屋さんは車が多くなったけど、私が幼い頃、この季節になると決まってやってくる焼き芋屋さんはリヤカーを引いて、歩いていた。
リヤカーに結び付けられているベル、それは町内会の福引などで、当たったときに鳴らされるあの大きなベルで、おじさんの引くリヤカーの動きにあわせて、チンチロリンと響いていた。
遠くのほうからベルの音と、「い〜しやぁきいもぉ〜〜〜」の声が聞こえてくると、家から飛び出したものだった。
バネの計りにぶら下がったザル、「500円ぶん下さい」と言うと、バネが切れてしまうんじゃないかというくらい、ザルにあふれんばかりのお芋を入れて計ってくれた。
そして新聞紙でくるまれた、あつあつほくほくのお芋を受け取る。
さらに「ほ〜ら」と、おじさんは軍手をした手でお芋を割ると、「うまそうだろ、食べながら行きな。」と、おまけしてくれた。
リヤカーに積まれたお芋を焼くための石、炎、あたりに広がる匂い、子供ながらにそれはとても幸せな瞬間で、おじさんが通ったあとは、道までもあったかいような気がした。

「い〜しや〜き〜も〜、や〜きいも、いっしやっきいもの時間だよ〜、は〜やくしないと行っちゃうよ」アナウンスは陽気に歌い続けている、そして、焼き芋屋さんの車はすっかり子供達に囲まれている。
でも車から降りてきたのは、私が幼い頃見た、北風にさらされて頬が赤くなったおじさんではなく、サンタさんの格好をしたお兄さんだった。
子供達は嬉しそうにお芋をほおばりながら、サンタさんと話している。
きっとこれもサービスなんだろうなぁ、なんて思いながら、横を通り過ぎる。

ふとフロントガラスに舞い降りた枯葉....。
あのリヤカーの焼き芋屋さんが懐かしくなる。

カーラジオのボリュームを上げると『NATURE BOY』が流れてきた。

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